執筆者:弁護士 柏田剛介
ご承知のとおり、正社員と、契約社員・パート社員との不合理な待遇格差を禁止する、改正パートタイム・有期雇用労働法が施行されたことに伴い、いわゆる同一労働同一賃金への対応に、人事担当者の皆様は頭を悩ませておられると思います。同一労働同一賃金を実現する上で悩ましい問題の一つが、契約社員・パート社員の手当などの待遇を改善し、正社員に合わせるための原資をどうするか、です。例えば、契約社員・パート社員に新たに手当を支給する際、正社員の同種の手当を減額することでその原資を確保すれば、全体としての人件費の負担を増やすことなく、契約社員・パート社員の待遇を改善することができますが、正社員との関係では、就業規則を不利益に変更することになってしまいます。そのような対応は、問題はないのでしょうか。
この点について、先例となる判決(山口地裁令和5年5月24 日判決)がありましたので、ご紹介いたします。
本件では、社会福祉法人が、正職員と非正規職員との不合理な待遇差の見直しを契機に、正職員のみを対象としていた「扶養手当」及び「住宅手当」を廃止し、非正規職員をも対象とした「住宅補助手当」及び「子ども手当」を導入した賃金規程の変更の是非が問題となりました。「扶養手当」及び「住宅手当」の廃止により、それまでこれらの手当を支給されていた一部の正職員の賃金は減るため、規程の変更は、その正職員にとっては不利益変更となります。本件でも、このような不利益変更を伴う賃金規定の変更が、労働契約法10 条本文が定める就業規則変更の合理性の要件を満たすのかが、問題となりました。
この点について、上記判決では、不利益変更の合理性を認め、変更を有効としました。判決理由では、正職員・非正規職員の不合理な差別を解消する取り組みとしての性質を有する就業規則変更について、その必要性を認めたと評価できる判断が示されました。
人件費の総額に限りがある中で、正社員と契約社員・パート社員の賃金の待遇差を解消させるには、正社員に対して一定の不利益の受入れを求めざるを得ない場合もあるかと思います。そのような場合の賃金規定の変更について、不利益変更の合理性を認めた上記判決は、実務上の参考となると思われます。
なお、本判決では、その他に労働組合との交渉の経緯や、待遇が減ることになる職員に対する激変緩和措置の存在、不利益を被る正規職員の不利益の程度が5% 未満にとどまること、人件費の総額は0.2% の減少にとどまることなど他の事情も指摘しつつ、労働契約法10 条本文の要件を満たすと判断しました。非正規社員の不合理な待遇差の解消を目的とする変更なら何でも許されるわけではなく、正社員が被る不利益の程度や、社員への説明、激変緩和措置も重要であることには留意が必要です。
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