執筆者:池辺健太
1.取引DPF消費者保護法(2022年5月1日施行)
「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」、通称「取引DPF消費者保護法」が、2022年5月1日に施行されました。
新型コロナウイルス感染拡大によりデジタルプラットフォーム(以下「DPF」)での取引利用が拡大し、マスクや消毒液など、衛生用品をめぐる取引のトラブルも増加しました。これらの事情を背景に、DPFでの商取引に関し、消費者を保護することを目的とした法律が、公布及び施行されたものです。
DPFを対象とする法律としては、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(DPF取引透明化法)」が先行していました(2021年2月1日に施行)。このDPF取引透明化法は、Amazonなど、一定以上の規模を持つ事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として規律の対象としていたものです。
一方で、新しく施行された取引DPF消費者保護法は、B to C取引が行われる、あらゆるDPFを適用対象としている点が、大きな違いとなっています。そのため同法は、ECモールだけでなく、ネットオークションサイトや、クラウドファンディングサイトなども対象となります。
また、法令の内容には、販売業者の出品にかかる削除(同法4条)や、販売業者の情報についての開示請求(同法5条)等、それらDPFを販売側として利用する企業にとっても、反射的に影響がある条項があり、注視すべきです。
2.販売業者の出品にかかる削除(同法4条)
同法4条1項により、行政は、危険商品等が出品され、かつ、販売業者が特定不能等の場合、取引DPF提供者に対し、出品削除等を要請することができることとなりました。この出品削除等の要請については、公表される可能性もあります(同法4条2項)。
そして取引DPF提供者は、この要請に応じたことにより販売業者に生じた損害について、免責されることとなります(同法4条3項)。
危険商品等とは、重要事項(商品の安全性の判断に資する事項等)の表示に著しい虚偽や、優良・有利誤認表示がある商品等を指しており、そのような商品が出品削除等の要請対象となります。
なお、上記の出品削除等要請ができるのは、「販売業者等が特定できないこと、その所在が明らかでないことその他の事由により、」「販売業者等によって当該表示が是正されることを期待することができない」場合に限定されています。この背景には、販売業者が特定可能である場合には、特商法等の個別法により対応可能であることがあります。
3.販売業者の情報についての開示請求(同法5条)
同法5条により、消費者が損害賠償請求等を行う場合に、必要な範囲で販売業者の情報の開示を請求できる権利が創設されています。
情報開示請求がなされた場合、取引DPF提供者は、販売業者側への意見聴取を行います(同法5条3項)。その上で取引DPF提供者は、販売業者等からの意見をも踏まえて、開示のための要件を満たすと判断した場合、速やかに販売業者等情報を開示することになります。
なお、消費者の損害賠償請求額が一定金額(1万円。同法施行規則4条)以下の場合や、販売業者の信用を毀損する目的である等、不正目的による場合は、上記の情報開示請求の対象外となります。
4.DPF提供者及び販売業者への影響
上記のとおり、取引DPF消費者保護法により、DPF提供者には、出品削除、情報開示等にかかる一定の対応が必要になりました。またDPF提供者に向けて、上記以外にも努力義務の定めがありますし、法の定める措置実施のための「望ましい取組の例」等が定められた指針も発表されています。
またDPFを利用する販売業者にとっても、DPF提供者が同法に従い、出品削除、情報開示等の対応をする可能性があることに留意し、その手続についても把握しておく必要があります。
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