コラム

COLUMN

医師の働き方改革

人事労務

2025.01.10

執筆者:弁護士 吉田幸祐

 医療機関の勤務環境改善に対する取組は、2014 年10月に、PDCA サイクル導入による勤務環境改善を医療機関の努力義務とする事からスタートしました。そして、2017年の「働き方改革実行計画」に基づき、医師の働き方改革が進められることとなり、2024年4 月より、これまで適用から除外されていた医師にも、時間外労働の上限規制がなされることとなりました。以下では、最新の医師の働き方改革について見ていきます。

1 規制の内容

(1)勤務医の時間外・休日の労働時間上限

 まず、2024 年4月からは医師の時間外・休日労働に上限が設けられ、原則として年間960時間まで(A 基準)となりました。
 特例として、都道府県知事の指定を受けた医療機関で指定に係る業務(地域医療の確保の目的(B 水準・連携B水準)や、臨床研修医や専攻医、特定の高度な技能の習得のための研修の目的(C-1 水準・C-2 水準))に従事する医師に限って、年間1860時間まで認められますが、これを超えることはできません。また、B 水準・連携B 水準に関しては、2035 年度末を目標に終了とされています。

(2)面接指導

 次に、1 か月の時間外・休日労働が100 時間以上となることが見込まれる医師に対しては、当該医療機関の管理者ではない面接指導実施医師による面接指導を実施し、勤務状況や睡眠状況、疲労蓄積状況等について確認の上、必要に応じて働き方の見直しを打診します。また、1か月の時間外・休日労働が155時間を超える場合には、遅滞なく労働時間短縮のために必要な措置を講じなければなりません。
 なお、面接指導の結果の記録は、5年間の保存が必要です。

(3)勤務間インターバル

 さらに、一日の勤務終了から翌日の出勤までの間に、一定以上の休息時間を設ける勤務間インターバルが義務化されました(A 水準適用の医師については努力義務)。具体的には、始業から 24 時間以内に9時間の連続した休息時間の確保を基本とし、宿日直許可のない宿日直に従事させる場合には、始業から 46 時間以内に18 時間の連続した休息時間を確保させることとなります。
 但し、医療現場での緊急業務の発生も考慮し、勤務間インターバル中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合には、当該労働時間に相当する時間の代償休息を、翌月末までに事後的に付与することで柔軟な対応の余地を残しました。なお、代償休息を前提とした勤務シフトを組むことは原則として認められません。

2 医療機関が取り組むべき事項

(1)労働実態の把握

 労働時間の実態を把握し、どの水準を適用するのかを設定し、医師労働時間短縮計画の作成等の取組を開始することが必要です。労働時間規制は、複数事業場での労働時間を通算して適用されますので、複数医療機関勤務の場合は、医師の自己申告等により他院での勤務時間を把握しなければなりません。

(2)タスク・シフト/シェア

 医師の担っている業務を他職種に一部移管したり、共同実施したりすることで、医師の負担の軽減を目指すことが考えられます。具体的には、特定行為や採血、ルート確保では看護師が、書類作成では医師事務作業補助者が協力する体制を整えることが考えられます。

(3)ICT の活用

 電子カルテ、遠隔医療、AI 技術の導入等によって、医師の業務効率を向上させることが考えられる他、一元的な勤怠管理システム、アプリ等を導入することで、在院時間の「見える化」により労働時間の見直しや改善に役立てることが考えられます。

3 おわりに

 医師の働き方改革は、医療現場にとって少なからず混乱を与えることが想定されますが、同時に、医師の健康と福祉を守り、持続可能な医療システムを構築するチャンスでもあるのです。

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