コラム

COLUMN

企業のガバナンスと取締役の責任

コンプライアンス・内部統制

2024.05.10

執筆者:弁護士 鶴利絵

 不祥事や事件、事故などが起こるたびに、「コーポレートガバナンス」の重要性が指摘されますが、なかなか企業を適切に運営していくための仕組み作りは、簡単にはいきません。
 「モノ言う株主」をはじめとした株主への説明責任を果たさなければならない企業はもとより、オーナー企業であっても、事業を長期に安定して成長させるためには、ガバナンス体制をしっかりと作ることが不可欠です。

 「コーポレートガバナンス」(企業統治)とは、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」(東京証券取引所コーポレートガバナンスコード)と定義付けられています。つまり、会社の運営にあたって、単に株主の利益だけを重視するのではなく、会社という組織体が健全に永続し、社会の一員としてその責任を果たしつつ、安定して成長を続けるための体制をつくること、というように理解してもよいでしょう。

 では、そのような「コーポレートガバナンス」をしっかりと効かせて、健全で安定的な成長を続ける組織を作るには、どうしたらよいのでしょうか?
 上場・非上場を問わず、思わぬ事件、事故、不祥事が起きると、会社の運営に重大なダメージを及ぼすことになります。一方で、これらを抑止するために会社の経営陣が、業務の隅々までチェックをするということは、到底不可能です。
 したがって、役員等の経営陣は、こうした企業運営に対するリスクを減らすために、事前に事業運営のどこにどんなリスクがあるかを調査し、そのリスクごとに対策を講じ、その講じた対策がきちんと実効的に運用されているかをチェックしてフィードバックする「仕組み」を構築することが求められます。

 旧ジャニーズ事務所やビッグモーター、日野自動車など、大型の企業不祥事は毎年のように起きており、その事業体の存続自体を危ぶませることもしばしばあります。これらに共通して言えるのは、「モノが言えない雰囲気」、「疑問をさしはさむことを許さない社風」と言えるでしょう。強権的な経営陣による押しつけや、上の言うことに逆らわない(逆らえない)社風などは、こうした大きな事件や事故を招きます。
 日野自動車のケースでは、第三者委員会の報告書の中で、「上の意見は絶対で、神様の様に崇め、上( 神様) が決めたことが絶対であり、未達成はありえない風土が形成されていった」、「言いたいことも発言できず上司の言いなりになるしかない」といった社風が形成されていたと指摘されています。そして、その中で、お互いに「自分の仕事範囲以外のことには首を突っ込まない」という社風が生まれ、自分の担当業務さえうまく回れば後は知らない、という環境が育ってしまったようです。

 経営陣としては、社内の自浄能力や創意工夫を引き出せるように、「改善と成長のための積極的な意見」が自由に述べられ、上司や決定権者がそれをしっかり聞きつつ、最後は適切な方向を決定し、チームがその方向に一丸となって進んでいくような組織作り、仕組み作りを、しっかりと行うことが求められます。

 当事務所でも、2022 年から、こうした社内風土の育成や心理的安全性の確保を通じて、事業と組織を成長させるコンサルティングを行っていますので、ぜひご相談ください。

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