コラム

COLUMN

仮想空間(メタバース)上での模倣品対策が可能に。不正競争防止法改正法が成立

知的財産

2023.07.05

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

1.仮想空間(メタバース)上での模倣品対策の必要性

 最近では、アバターを使って仮想空間でショッピングをしたり、旅をしたりということもできるようになってきました。そして、メタバース上で「見かけた」商品やサービスをすぐにインターネットを通じて購入したりすることもできるようになり、メタバースと現実空間がリンクして、経済的な価値を産み出すようになってきています。
 ところで、このようなメタバース上で、勝手に有名ブランドの服を着た自分のアバターを歩かせることは、法律に違反しないのでしょうか?
 あるいは、有名ブランドのバッグや靴を模倣したバッグや靴のデータをメタバース上で販売する行為は、許されるのでしょうか?
 このように、メタバースにおける模倣品に対して、どのような法規制が可能かは、従来、曖昧な状態が続いており、そういったトラブルの発生が懸念されていました。 実際にも、アメリカでは、アーティストによるNFTプロジェクト「メタバーキン(MetaBirkins)」において、エルメスの著名なバッグである「バーキン」をベースに、そのバーキンにさまざまな柄を描いた「作品」をメタバース上で販売したアーティストに対し、エルメスが訴訟を提起するといった事件も起こっており、このようなメタバース上での模倣品の問題は、すでに現実に発生しているといえます。

2.従来の法律による対応

(1) 商標権による対応

 このような、メタバース上の模倣に対しては、まず、商標権による対応が考えられます。例えば、「バーキン」は、日本でも、「エルメス・アンテルナショナル」が、18類(かばん類,袋物,皮革,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,愛玩動物用被服類)について、商標権を有しています(商標登録第4384061号)。
 では、メタバース上での「バーキン」の「偽物」に対して、エルメスは商標権を行使してその差止や損害賠償などを求めることができるでしょうか?
 その答えは、残念ながらNOです。
 なぜなら、商標権は、その「指定商品役務」について登録されていますので、非類似の指定商品役務に対して当該商標を使用する行為は、商標権侵害にはなりません。そして、メタバース上でバッグの絵を表示したり、そのバッグが表示されるデータを販売する行為は、バッグそのものを売っているわけではなく、単に「データ」や「プログラム」を提供しているにすぎません。そうすると、このようなメタバース上でのバッグのデータを送信したり複製したりする行為は、「かばん」を販売しているわけではないので、18類「かばん類」とは異なる指定商品役務について「バーキン」という名称を使用しているにすぎず、商標権侵害とはならないという結論になります。

 なお、これについては、ナイキが、メタバース上での使用を念頭に置いて、自社の商標の指定商品役務を設定して出願をしており、注目に値します(商願2021-132597)。この出願では、ナイキは、指定商品役務について、例えば「9類(仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの))」などを対象としており、メタバース上での利用を念頭に置いています。
 このように、メタバース上での利用を念頭に置いた商標出願をしておけば、ある程度こうしたメタバース上での模倣に対しても対応が可能ですので、今後の商標出願においては、指定商品役務の選択において、こうした点も配慮すると良さそうです。
 もっとも、商標権は、その指定商品役務について3年間権利者がこれを使用しなかったときは、不使用取消の対象となります。したがって、こうした出願をしたとしても、その後、権利者がメタバース上でその商標を使用しないまま3年が経過してしまうと、取り消されてしまうリスクがある点は、注意が必要です。

 では、こうした、指定商品に関してメタバースを念頭に置いた適切な配慮がなされないまま商標出願がされている場合は、メタバース上での模倣対策はできない、ということになるでしょうか?

(2) 不正競争防止法による対応

 こうした場合に、次に考えられるのは、不正競争防止法上2条1項3号の形態模倣の規定の活用です。
 これは、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為」を禁止する条文で、いわゆる「デッドコピー」対応などに利用されるものです。
 もっとも、この条文で禁止されていたのは、「譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」です。そうすると、メタバース上で、「バーキンのデータ」を送信してバーキンと同一のデザインをメタバース上で表示する行為や、そうしたデータを販売する行為は、バッグを譲渡等しているわけではないので、形態模倣には該当しないということになってしまいます。

3.不正競争防止法の改正

(1) 改正内容

 これらの不都合を回避し、メタバース上でも権利者の適切な権利保護を図るため、2023年6月7日、不正競争防止法の改正法が成立しました。
 これにより、形態模倣として禁止される行為については、「譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」とされ、下線部が変更、追加されました。

(2) 改正法の意義

 この不正競争防止法の改正により、今後は、メタバース上の形態模倣行為に対して、不正競争防止法による差止請求や損害賠償請求を行うことが可能となります。
 これにより、メタバース上での権利者の権利保護が図られることになると考えられます。
 一方、メタバース上で様々なアバターやデザインを楽しむ利用者の観点からは、現実世界と同様、模倣品や紛らわしいものには手を出さない、という慎重さが要求されると言えます。
 メタバース上での様々なサービスなどを提供しようとする事業者の皆さんも、この点は、十分に注意して、事業を構築して頂きたいと思います。 

 

 

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