1. 今回は、交通事故に遭い、自動車損害賠償法施行令別表第二3級3号に該当する高次脳機能障害が残存した男児(事故時4歳)とその両親が、加害者らに対し、損害賠償を請求した裁判の最高裁判決を紹介します。
最高裁は、①交通事故被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償を求めている場合、損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときは、定期金賠償の対象となる。②定期金賠償を命ずるにあたっては、交通事故時点で被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金賠償の終期とする必要はないと判断しました(最高裁令和2年7月9日第一小法廷判決)。
2. 検討
被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償を求める最大のメリットは、一時金賠償であれば必須となる中間利息控除がないことです。
逸失利益は労働能力喪失による損害ですから、本来、労働能力喪失期間中をかけて毎月毎年発生する損害です。それを一時金として前払いで賠償を受けることにより発生する運用益分を控除するのが、中間利息控除です。
上記裁判では、裁判例の多くが採用する計算基準によると、労働能力喪失期間中の損害約2億円から1億5000万円近くの中間利息控除がされ、賠償額は5000万円弱となります(上記裁判の交通事故当時の法定利率5%を基準に計算。※令和2年4月改正民法による3%の法定利率(3年ごとに見直し予定)が適用される交通事故における中間利息控除額は、5%よりも低額となります。)。
上記裁判の中で、原告側は就労可能期間始期である18歳から終期である67歳までに取得すべき収入額を、その間隔月に定期金により支払うことを求めたのに対し、被告側は、一時金による支払いを求めました。
これに対し、中間利息控除がない定期金賠償では、総額で労働能力喪失期間中の損害約2億円全額の賠償となり、一時金賠償に比べ、大きなメリットがあるといえます。
しかし、上記②のとおり、判決時に、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることは要しませんが、実際、定期金賠償の支払途中で被害者が死亡した場合にも定期金賠償を受け続けられるかについて、最高裁は判断していません。
最高裁判決の補足意見において、定期金賠償を認めた確定判決を一時金による賠償に変更する訴えを提起する方法が示唆されていることに鑑みると、死亡時には、当該訴訟が提起される可能性は否めません。これに対し、一時金払いであれば、仮に賠償金支払後に被害者が死亡しても、その返金は必要ありません。
このように一度の裁判で紛争が終局的に解決しないことや、途中で賠償義務者が破産するリスクがあることなどが被害者側にとっての定期金賠償のデメリットとなります。
そのためどちらの方法による賠償を請求するのかは、慎重に選択しなければなりません。
後遺障害逸失利益に限らず、交通事故賠償においては、弁護士が対応をすることで賠償額が大きく変わることがあります。交通事故被害に遭った場合には弁護士へ相談することや、弁護士費用の負担を軽減するためにもご加入の自動車保険等について事前の弁護士費用特約の付保もお勧めいたします。
(2021年1月)
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