執筆:弁護士 柏田 剛介
1 近年、従来型の雇用関係とは異なる新しい働き方の一つとして、企業と労働契約を結ぶことなく働くIT 技術者、ライター、デザイナーといったフリーランスが注目され、政府もこれを後押ししています。しかしながら、フリーランスとして働く方々は、立場が弱く、不公平な取引を強いられることも多かったにもかかわらず、保護するための制度が十分に整備されているとは言えませんでした。
そのような状況にあって、平成30 年2 月15 日、公正取引委員会は、「人材と競争政策に関する検討会」報告書(以下、「本報告書」といいます)を公表しました。本報告書はフリーランスを独占禁止法で保護する上での考え方を整理したもので、公正取引委員会は、同報告書で示された考え方を、今後の独占禁止法の運用上の指針とすることを明らかにしています。そのため、同報告書を理解しておくことは、フリーランスを活用する事業者の皆様、また、フリーランスとして働いておられる方にとって、極めて重要です。本稿では、この報告書についてごく簡単ではありますが、ご説明します。
2 本報告書が明示する規制対象行為の例
(1)秘密保持義務・競業避止義務・専属義務
発注者がフリーランスに課す次のような義務について、発注者がその内容について実際と異なる説明を
し、又はあらかじめ十分に明らかにしないままフリーランスがそのような義務を受け入れている場合
は、独占禁止法上問題となりえます。
また、発注者が優越的地位にあり、発注者が課す義務が不当に不利益を与えるものである場合には、独
占禁止法上の問題となり得ます。
・秘密保持義務… フリーランスが発注者への役務提供を通じて知り得た技術や顧客情報といった営業秘密
やその他の秘密情報を漏洩してはならないとする義務。
・競業避止義務… フリーランスが、契約期間中あるいは契約終了後に、発注者と競合する者に対して一定
期間役務提供を行ってはならないとする義務。
・専属義務……… フリーランスが特定の発注者とだけ取引をしなければならないとする義務。
(2)成果物の利用制限
フリーランスの提供する役務により生ずる成果物について、発注者が次のような義務を課すことは、独
占禁止法上問題があります。
① 成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務付けること(成果物の
非公表の義務付け)
② 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止すること(成果物の転用制限)
③ フリーランスの肖像等の独占的な利用を許諾させること(肖像等の独占的許諾義務)
④ 著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず納品後や納品直前になって著作権
を無償又は著しく低い対価で譲渡するよう求めること
(3)実態より優れた取引条件の提示
また、本報告書は、発注者がフリーランスに対して事実とは異なる優れた取引条件を提示し、又は役務
提供に係る条件を十分に明らかにせず、フリーランスを誤認させ、又は欺き自らと取引するようにする
ことが、独占禁止法上問題となり得るとしています。
(4)その他発注者の収益の確保・向上を目的とする行為
本報告書は、発注者による以下の行為が優越的地位の濫用の観点から独占禁止法上の問題となる場合が
あるとしています。
ア 代金の支払遅延、代金の減額要請及び成果物の受領拒否
イ 著しく低い対価での取引要請
ウ 成果物に係る権利等の一方的取扱い
エ フリーランスが得ている収益の一部の譲渡の義務付け
3 最後に
以上、本報告書が問題としている具体的な行為についてみてきましたが、本報告書においては問題となる取引が相当具体的に取り上げられていることがお分かりいただけたかと思います。今後、フリーランスと取引する場合、あるいは、自らフリーランスとして取引を行う場合、本報告書の内容を十分に把握しておくことは必須になるかと思います。
(2018年8月執筆)
- 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
- 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。