執筆者:弁護士 堀田明希
【アート作品が改変される】
2023年3月、東京・渋谷の複合商業施設「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」内にあった、吉田朗氏創作の現代アート作品「渋谷猫張り子」が、作者の知らぬ間に施設運営者らによって別の姿に改変され、その後撤去されたという報道がありました。
吉田朗氏によれば、白を基調としていたはずのオブジェが黒色落書き風のデザインに改変されるとともに、アーティスト名と作品名を示した銘板のある台座部分もラッピングシートで覆い隠されていたようです[1]。
【何が問題か】
この報道に接した方の中には、「アーティストのこだわりを踏みにじる行為はけしからん!」と思う方もいるでしょうし、「自分のもの[2]に色を塗ったり、変更を加えたりすることの何が問題なの?」と思う方もいらっしゃると思いますので、まず「自分のものに色を塗ったり、変更を加えたりすることの何が問題なの?」について説明します。
確かに、自分の所有物を処分することは所有者の自由です。書店で買ったマンガ(所有物)を、読むことも、枕にすることも、読み終わった後に捨てることも自由です。
ただし、書店で買ったマンガ(所有物)をスキャンして、そのデータをインターネットにアップロードしたら、なんだかまずそうだ、という感覚自体はご理解いただけるのではないでしょうか。所有権と著作権は別個の権利であるところ、例え自分の所有物であったとしても、同時に他人の著作物である場合には、改変行為等が著作物の著作者の権利を侵害する可能性があるのです。
著作者は、著作者人格権として同一性保持権[3]を有するとともに、翻案権[4]を専有しているため、著作者に無断で著作物の内容を改変する行為は違法行為となりえます。なお、この同一性保持権の根拠は著作者のこだわりを保護することにあるため、「アーティストのこだわりを踏みにじる行為はけしからん!」という考えは著作権法においてきちんと保証されていることになります。
そして、著作権を侵害した場合、10年以下の懲役若しくは/及び1000万円以下の罰金に処される恐れがあり、著作者人格権を侵害した場合には5年以下の懲役若しくは/及び500万円以下の罰金に処される恐れがあります[5]。また、これはあくまで刑事罰に関する規定であるため、著作者(著作権者)への損害賠償は別途行わなければならない可能性が残ります。
【どうしたらいいのか】
ここまで読んでいただいた方は、気軽に他人の作品を扱えないと思われたかもしれません。
実際はどうしているかと言いますと、他人に作品を作ってもらう場合に、あわせて著作権も譲渡してもらう、著作者人格権の行使を行わない旨誓約してもらう(不行使特約)という取り決めを行う事があります。なお、同一性保持権を含む著作者人格権は譲渡できないので、不行使特約で対応することになります。
逆に、アーティストの側から見れば、この「こだわり」を守るために著作権を譲渡しない、不行使特約を盛り込まないということも、きちんと検討しなければなりません。
ちなみに、この取り決めは美術の著作物に限るものではなく、たとえば広告に使うLPを作成してもらう、ソフトウェアを作ってもらうなど、著作権が生じうる取引を依頼する場合には検討すべき取り決めとなります。
本件では、報道等を見る限り施設運営側の対応そのものが問題をこじらせた原因のようにも見受けられますが、人の関わる行為には「創作」が必ずあり、著作権が生じている可能性も高いため、常に著作権侵害の問題は生じえます。
「著作権をどうするか」という視点にはご留意いただければ幸いです。
[1] https://yukari-art.jp/jp/news-jp/36859/
[2] 権利関係は不明ですが、議論の関係上、MIYASHITA PARK側が「渋谷猫張り子」の所有権を有していたことを前提に論を進めます。
[3] 「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(著作権法20条1項)
[4] 「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」(著作権法27条)
[5] 著作権法119条1項、2項1号
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