現在ベトナムでは、個人情報保護の法制定作業が進められています。弊所も、2021年11月のベトナム情報ニュースレターにおきまして、法案の翻訳と分析を行ってまいりました。個人情報保護の政令草案の作成は公安省の担当とされ、公安省は2021年2月に草案を公開し、パブリックコメントに付しました。このパブリックコメントの反応を見て、公安省は草案の改定作業を行ってきました。
本来ですと、今のこの時期には法令が制定され皆様にご紹介する予定でしたが、制定作業が遅延している模様です。今回は、ベトナムにおける個人情報保護法の制定状況について、簡単なレポートをお届けします。
まず、2022 年3 月7 日に発出された個人情報保護に関する政府議決27 号(27/NQ-CP)によれば、今回の個人情報保護法の立法形式が政令である点が注目されます。ベトナムでは、日本のように法令間の上下関係が必ずしも明確ではありません。本来は国会が制定する法律で定めるべき事項も、社会管理の需要に応える必要があり、かつ法律を作成する条件が整っていなければ、政府が制定した政令により暫定的な対応をすることが認められます(法律規範文書発行法第19条3項)。この規定に基づき、政府は、
個人情報保護のための政令を制定しているのです。
ただし、この形式での政令の制定は、政府が単独で行うことは認められず、事前に国会常務委員会の同意が必要です(同法第19 条3 項)。この同意を得るために、政府は政令草案を意見徴求のために国会常務委員会に提出します(同法95 条1 項)。国会常務委員会への草案提出に際しては、草案に加えて、影響評価報告書、施行総括報告書、実情評価報告書、査定報告書などが添付されます。国会常務委員会は、これらの資料に基づき政令の制定許可を審理し、意見を提出します(同法95 条2 項から5 項)。報道によれば、公安省は2021 年11 月には政令草案の改定作業を完了し、政府は、2022 年3 月に公安省が個人情報保護の政令草案を国会常務委員会に提出することを承認しました。残念ながら、国会常務委員会に提出された政令草案は未公開です。その後、2022 年4 月の国会常務委員会第10 回会議と2022 年8 月の国会常務委員会第14 回会議にて、個人情報保護の政令案に関する審議と意見の提出が行われた旨が報道されています。ただし、その内容についての報道はみられません。
個人情報保護に関する立法は、日本の個人情報保護法(2017年制定)やEUのGDPR(2018年制定)をはじめとして、世界的な潮流です。ベトナムも、2019 年に電子政府に関する政府決議17/NQ-CP を発出し、公安省に個人データ保護に関する政令案を制定する責任を割り当てました。これに基づいて、公安省が制定作業を行っていますが、2021 年に公安省が制定しパブリックコメントに付した政令草案は、世界の個人情報保護規制の厳格な部分を寄せ集めたものであるとの批判を受けました。公安省という機関の性格上、プライバシーなど個人の権利保護と個人データの適正な利用という観点よりも、社会の安定維持という価値がより重視されたものと考えられます。このため、公開草案に対しては各国の商工会などから強い批判が寄せられたようです。
報道によると、個人情報保護に関する法律の制定も検討されており、2024 年の制定を目指しているとのことです。国会での議論を経て、バランスの取れた個人情報保護制度が確立されることが望まれます。
企業側の準備としては、最終的に制定される個人情報保護に関する法律や政令に対応して、速やかにプライバシーポリシーの整備や、データや個人情報の取扱いに関するフローの見直しが進められるよう、まずはベトナム法人内にどのような種類の個人情報があり、それはどうやって収集されたもので、使用される範囲はどこまでが想定されているのかといった、個人情報の棚卸をしておくことが有益です。このような体制整備については、私たちも、日系企業様のご相談に随時ご対応させていただいておりますので、事例をしっかり蓄積してアドバイスさせていただこうと思います。
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