執筆者:堀田明希
1 パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージの策定
令和3年12月27日、内閣官房 (新しい資本主義実現本部事務局)、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、公正取引委員会は、原油価格の高騰や円安の進展によるエネルギーコストや原材料価格の上昇分を取引事業者全体のパートナーシップにより適切に価格転嫁できるよう、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を取り決めました。
簡略化すれば、今回の施策は労務費、原材料費、エネルギーコスト(以下「原価」といいます。)の上昇分を下請事業者や立場の弱い事業者、労働者に負担させる、「下請けいじめ」「買いたたき」等を防ぐための監視、是正強化となります。
パッケージの内容は、政府横断的な転嫁対策の枠組みの創設、労働基準監督機関における対応、公共工事品質確保法等に基づく対応の強化、大企業とスタートアップとの取引に関する調査の実施と厳正な対処等が含まれますが、価格転嫁円滑化に向けた法執行の強化に関し重点立入業種が選定等されましたので、以下、価格転嫁円滑化に向けた法執行の強化に関するご説明も踏まえてお知らせいたします。
2 価格転嫁円滑化に向けた法執行の強化(概略)
(1)価格転嫁円滑化スキームの創設
公正取引委員会等は、業種別の法遵守状況の点検を行うため関係省庁から情報提供等を受けるとともに、下請事業者が匿名で、「買いたたき」などの違反行為を行っていると疑われる親事業者に関する情報を公正取引委員会・中小企業庁に提供できるホームページを通じて、広範囲に情報提供を受け付けるようにしています。
また、原価上昇分の転嫁拒否が疑われる事案が発生していると見込まれる業種について、重点立入業種として、毎年3業種ずつ対象を定めて、立入調査を行うことになっています。
令和4年5月31日に公表された重点立入業種は、【道路貨物運送業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業及び輸送用機械器具製造業】となります。
(2)独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査及び法執行の強化
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関して、原価上昇分の転嫁拒否が疑われる事案が発生していると見込まれる業種について、これまでは荷主と物流事業者との取引のみ調査を行っていましたが、対象業種を追加的に選定し、令和4年度に緊急調査を公正取引委員会において実施することになっています。
令和4年5月31日に公表された、緊急調査の対象となる業種は以下の通りです。
【総合工事業、食料品製造業、家具・装備品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、印刷・同関連業、窯業・土石製品製造業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械器具製造業、業務用機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、放送業、映像・音声・文字情報制作業、道路貨物運送業、各種商品卸売業、飲食料品卸売業、各種商品小売業、飲食料品小売業、広告業、その他の事業サービス業】
(3)下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)上の「買いたたき」に対する対応
①下請代金法上の「買いたたき」の解釈の明確化
- 原価等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりの取引価格に据え置くこと。
- 原価等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を文書や電子メールなどで下請事業者に回答することなく、従来どおりの取引価格に据え置くこと。
は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることが明確化されました。
②下請法上の「買いたたき」に対する取締り強化
親事業者への立入調査の件数を増やすなど取締りを強化するとともに、再発防止が不十分な事業者に対しては、取締役会決議を経た上で改善報告書の提出を求めることになりました。
改善報告書は、現在法律に基づく勧告事案のみに要求されていますが、この運用が変更されることになります。
(4)下請Gメン
中小企業からの相談窓口(下請かけこみ寺、原油価格上昇に関する特別相談窓口)における価格転嫁に関する相談をもとに、下請Gメンによるヒアリングを実施し、親事業者による価格転嫁の協議への対応状況を詳細に把握し、その結果を公表することになっています。
なお、下請Gメンは令和3年12月時点で120名いましたが、令和4年度より倍増となり、下請Gメンヒアリングも令和4年5月31日時点で既に80件実施されているとのことです。
(5)取引適正化のための業種別ガイドラインの拡大
食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドラインを新たに策定される予定です。
3 むすび
中小企業庁及び公正取引委員会は、令和4年5月31日に「価格転嫁に係る業種分析報告書(パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ関係)」を作成、公表しました。
報告書には、緊急調査の調査対象だけでなく、業種別の状況統計や違反事例が記載されています。
また、公正取引委員会はソフトウェア関連企業2万1000社を対象にアンケート調査を行い、令和4年6月29日に「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」を公表していますが、多重下請け構造による違反行為の確認及び対応強化する方針となっています。
このように、従前と比較して下請法等の法令が遵守されているか監視が強化されていますので、貴社の対応に問題点がないか、念のためこの機会に確認されることをお勧めいたします。
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