執筆者:弁護士 原智輝
こんにちは!弁護士の原智輝です。
生成AIは今や業務効率化や意思決定支援のための強力なツールとして、さまざまな企業で注目を集めています。特に中小企業にとっては、大規模なリソースを必要とせずに、迅速かつ効率的に業務改善を図る手段として非常に有益です。
2024年も年末を迎え、OpenAI社からは「12 Days of OpenAI」と題したサプライズイベントが続々と発表されています。中でも「Sora」のような新たな生成AIツールや個人向け上位プラン「O1 Proモデル」の登場は、生成AIの可能性をさらに広げるものと感じます。
こうした背景の中、生成AIを使った業務改善に興味を持つ企業から「具体的にどのように活用しているのですか?」といった質問を受ける機会が増えています。そこで本記事では、私自身が実践している具体的な利用方法をいくつかご紹介し、中小企業の皆様が生成AIを活用する際のヒントになればと考えています。
〖注意点①〗
生成AIは学習データに含まれていないデータを利用せざるを得ない要求がされた場合、高い頻度でハルシネーションを起こします。例えば、ChatGPT O1 Proに学習モデルに使われているデータの基準時期を尋ねた場合、2023年10月とされています。そのため、何かしらRAG(*Retrieval-Augmented Generation)による法令データベース等のカバーを行わない限り、現行法令に従った契約書のレビューやリーガルレポートなどの生成を行わせるといった使い方は避けた方がよいでしょう。
*RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIが外部データベースを参照しながら回答を生成する仕組みです。これにより、AIが学習データに含まれていない最新情報や特定の業務データを活用した出力が可能になります。
〖注意点②〗
生成AIの基本原理や生成AIリスク、関連法令等の習得が未了の場合は、基本的に自社情報を入力することは避けるべきです。もちろんこのような情報を入力する方が、より深く有益な出力を得ることができますが、他方で生成AIにより生じるリスクも看過できないため、本記事でご紹介するようなプロンプトを用いて、自社情報を使わない生成AI利用から始めてみてはいかがでしょうか?
〖注意点③〗
本記事で挙げているプロンプト例はサンプルで、通常の口語会話に近い表現を採用しています。ユーザーのプロンプトスキルや生成AIの理解度に応じてどんどん良くしていく余地が大きいものになっています。生成AIを初めて使う方で、少し慣れてきたのであれば、ChatGPTとプロンプトの分析や改善案を議論したり、関連知識を深めたりすることで、より使いやすいプロンプトが生成されると思います。
続いて、具体的な活用例に進みます。
■マクロ環境でのポジション分析
企業や事業内容におけるマクロ環境の分析です。ルーティンワーク化できるため、いわゆる「テンプレートプロンプト」をブラッシュアップしていくような形で、どのような従業員や役員であっても扱える容易性があります。
i) まずは分析したいマクロ環境のピックアップ
「自社の福岡県での立ち位置を分析したい」「業界のコンペティターとの立ち位置を分析したい」といった経営のために欠かせない分析目標を設定します。この段階からChatGPTを活用してもいいでしょう。例として以下のようなプロンプトを入力すると、ChatGPTよりマクロ分析項目が表示されます。
プロンプト例
「福岡県の●●業界において競合他社や●●業界のマクロ分析を行いたい場合どのような項目を調べていくことが考えられますか?優先度順にリストアップし、その理由を添えることで、ユーザーが項目選択しやすいような出力を行ってください。」
理由や優先度を見ながら自社にとって有益と思われる項目をピックアップしましょう。また、一部希望する項目を足したりするなどして、調査対象項目を確定させることがこのステップのゴールになります。
ii) 調査方法の設定
次は、設定した調査項目に対する調査方法の検討に入ります。ここも同じようにChatGPTに調査項目の調査方法の検証を行ってもらいましょう。ほんの少しプロンプトスキルに触れると、ChatGPTに対するプロンプトではユーザーの目的をプロンプト冒頭で表示することで、ChatGPTは目的に沿った出力を心がけるようになります。
プロンプト例
「目的:自社の福岡県における●●業界での立ち位置の分析を行いたく、具体的には、業界のコンペティターとの立ち位置を分析したい。
(改行)
目的を達成するために、「【調査項目①】、【調査項目②】・・・」といった項目を調査しようと思うが、生成AIを使って調査を行う場合、どのような調査方法が考えられるか、優先度順にリストアップし、その理由を添えることで、ユーザーが方法選択しやすいような出力を行ってください。」
*改行を挟むことで、プロンプト内の情報を区切り、ChatGPTが目的表記を他の要素から分離して認識しやすくなる効果を狙っています。また、目的の記述については、同一スレッド内で冒頭のプロンプトを入力している場合、ChatGPTは理解してくれると思いますが、異なるスレッドで入力する可能性があることを想定して付記しています。
このようなプロンプトを入力すると、例えば調査項目ごとに推奨される調査方法が列挙される場合があります。以下は美容業界を例にした出力例です。
出力例
優先度1:基礎的な市場情報・需要動向の要約
- 方法例:
- 既存の市場調査レポートや公的資料の要約:経済産業省、厚生労働省、自治体(福岡県庁・商工会議所)の公開資料や美容業界専門誌、各種マーケットリサーチ企業のレポート文章を生成AIで入力・要約
- トレンドワード収集と解釈:インターネット上のニュース記事、業界ブログ、SNS上の顧客投稿からキーワードを抽出し、AIでトレンド変化をサマリ
- 理由:基礎市場データやトレンドの把握は全体感を掴むための前提となる情報であり、AIによる要約は情報収集の初動段階で効率的に行えるため。
もし、このような出力が出ず、ChatGPTの出力に問題がある場合は、こちらの例をコピー&ペーストし、
「このような例を用いて再度出力を試みてください。」
などと添えるとよいでしょう。
続いて、さらに発展させた方法について説明します。
〖さらに発展させると・・・〗
今回は主流となっているChatGPTの利用を念頭に置いていますが、例えば「*Perplexity」(AIによる検索型回答サービス)など、検索に優位性の高い生成AIと組み合わせることもできます。検索手法において、ChatGPTにPerplexityを組み合わせた調査方法を検討させることで、より深い分析が可能になります。
このように複数の生成AIを結び付けていく経験を積むことで、後のAPI接続やワークフロー化の際の参考にもなります。慣れてきた際はぜひ挑戦してみてください。
*「Perplexity」は、検索エンジンとして機能しつつ、検索結果をもとに要約や分析を行う生成AIツールです。これを活用することで、通常の検索以上に効率的かつ高度な情報収集が可能になります。
このステップでは最後に、提案された調査方法の中から特に有意な方法を選別し、自身の考える調査方法などを加えながら、調査方法を確定させていきます。
補足情報として、後の工程でChatGPTがユーザーの目的を理解するため、単に調査方法のみを抽出するのではなく、理由や調査題目(項目)も併せて整理して抽出するとよいでしょう。
iii) 調査実行プロンプトの生成
次のステップでは、調査項目ごとに調査プロンプトを生成させることを目的とします。プロンプトでプロンプトを生成させるというと何やら不思議な感じがしますが、非常に便利なスキルです。重要なのは、調査項目ごとにプロンプトを生成させた方が出力の品質や有用性が向上しやすいという点です。
プロンプト例
「目的:自社の福岡県における●●業界での立ち位置の分析を行いたく、具体的には、業界のコンペティターとの立ち位置を分析するための調査方法について、正確かつ実用性の高い情報が出力されるようなテンプレートプロンプトを生成したい。
(改行)
ChatGPTは【調査項目】について【調査手法】を自身に実行させる際に最適なプロンプトを生成してください。プロンプト生成においては、ユーザーの目的に準拠したプロンプトになるよう調整を行ってください。」
このようなプロンプトを入力すると、ChatGPTはテンプレートプロンプトを生成してくれます。例えば、美容業界の例でいくと、以下のようなテンプレートプロンプトが生成されることがあります。
テンプレートプロンプト例
「あなたは美容業界の市場分析に精通したリサーチャーです。以下に示す【資料】をもとに、福岡県における美容業界(特に美容室市場)の基礎的な市場情報と需要動向について、正確かつ実用的な要約を行ってください。
要約では、以下の点に特に留意してください。
- 市場規模・成長傾向:福岡県内の美容室市場の総規模、直近数年の成長率、出店数・閉店数の傾向など。
- 需要動向:来店頻度や客単価、消費者層(年齢・性別・嗜好性)における特徴、コロナ禍による需要変化などがわかる場合は示す。
- 情報源の信頼性・出典明記:可能な範囲で、要約に含めたデータやトレンドがどの資料・報告書・調査機関(例:経済産業省、厚生労働省、福岡県庁、商工会議所等)に基づくか示す。
- 自社立ち位置分析への応用:ユーザーの目的は、業界内での自社ポジションの再評価であるため、分析結果が後の競合比較や戦略立案に有用となるよう、顧客ニーズや市場トレンドが自社のビジネスに与えるインパクトを示唆する観点を加えてまとめる。
【資料】
(ここに経済産業省や厚生労働省、福岡県庁、商工会議所、美容業界専門誌、市場調査会社のレポート、関連ニュース記事等からのテキストを貼り付けてください)
以上を踏まえて、明確かつ簡潔な要約を提供してください。」
解説
「ここに資料を貼り付け」形式となるのは、注意点①にあるようにChatGPTの学習モデルデータの基準時が最新の動向を補足できないからです。Perplexityなどの検索系生成AIを併用することで、このような部分が補完され、さらに利便性が高まります。
いずれにせよこのようにして複数の項目から自社のマクロ分析を行うためのテンプレートプロンプトを用意することができます。
最後に
いかがでしたでしょうか?生成AIの活用は、業務の効率化や新たなビジネスチャンスの発掘など、多くの可能性を秘めています。本記事でご紹介した内容が、貴社における生成AIの導入や活用のきっかけとなれば幸いです。
さらに具体的な導入方法を学びたい、あるいは自社の業務での活用を検討されている企業様向けに、当事務所では生成AIの活用をテーマにしたハンズオン型ワークショップを実施しております。このワークショップでは、生成AIの基礎から実際のプロンプト作成、業務への応用方法までを具体的に体験いただけます。
参加をご希望の方や詳細を知りたい方は、当事務所のウェブサイトまたはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。生成AIを活用した次世代の業務改善を、ぜひご一緒に実現しましょう。
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