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コラム

COLUMN

「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめと「知的財産推進計画2024」~生成AIと著作権やその他の知財権利者との調整~

知的財産

2024.06.07

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

1.「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめと「知的財産推進計画2024」の決定

 内閣府は5月28日、生成AIと知的財産保護のあり方を議論する「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめを公表しました。また、日本国政府としても、6月4日、岸田文雄首相を本部長とする知的財産戦略本部が開催され、「知的財産推進計画2024」が決定されました。

 これらを通じ、生成AIを活用する側の利益と、生成AIに「学習されてしまう」コンテンツの制作者や著作者などの権利者側の利益の調整を図る方向性が、いったん示されたと言えます。

 もちろん、こうした生成AIを巡る権利関係は、世界的にも、まだまだ整備の途上であり、今後も、頻繁に動きがあると思われますので、引き続き注視が必要です。

2.「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめ

(1) 全体像

 「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめ(以下、「中間とりまとめ」といいます。)では、いくつかの論点に触れられていますが、中でも、①生成AIが学習し生成する過程で学習したコンテンツの原権利者の権利をどう守るかと、②生成AI自身が生成したアウトプット(生成物)の権利は、誰に帰属するのか、という二点を取り上げてみたいと思います。

(2) 生成AIに学習されたコンテンツの原権利者の権利との調整

 著作権法30条の4では、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」については、原著作者の承諾は不要とされており、その一例として、「情報解析」なども列挙されています。従来は、この規定により、「日本の著作権法上は、著作者は、自分の著作物を勝手に生成AIに学習されても、何も言えない」のではないかという問題点が指摘されていました。

 この点については、今回の中間とりまとめでも、基本的な枠組みは変わっておらず、生成AIが第三者の著作物を学習することそのものについては、著作権を侵害するものではないとされています。ただ、今回の中間とりまとめでは、「享受目的と非享受目的が併存する場合、著作権法30条の4は適用されない」ことが確認されており、その該当例として、意図的に学習データに含まれる著作物の全部又は一部を出力させる目的で学習する行為などが挙げられています。つまり、新聞の記事や特定の作品などを要約や改変して出力させる目的が併存している場合は、これらを学習させること自体が、著作権侵害になり得ることを明確にしました。

 もっとも、具体的な作品に類似するものを出力させる目的ではなく、特定の作家やアーティストの作品を学習して、「作風」を再現し、これを元に別の著作物を生成するような場合には、著作権法30条の4の適用範囲内であることが明示されています。したがって、これらの「作風」自体は、法的保護の対象には、原則としてならないと言えるでしょう。

 また、こうした「作品」ではないものについても、データベースなどについては、従来からも、有償で販売されているデータベースを学習して生成物を作成する行為は、著作権法30条の4の但し書きにある「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し、これを権利者に無断で学習させる行為は、著作権侵害になるとされていました。そうでないと、労力と費用をかけてデータベースを作成した者が、その対価を正当に受け取ることができないからです。今回の中間とりまとめでは、このような場合に加え、データベースの著作物が実際に販売されていない場合であっても、複製防止措置等により将来販売される予定があると推認される場合にも、同条但書に該当し得ることが明示されました。これにより、データベースの作成者(権利者)の保護の範囲が広がったと言えます。

 なお、これらの論点とは別に、著作権侵害を認定する場合の「依拠性」についても、原権利者の保護が図られる方向で整理されています。

 そもそも、著作権侵害が成立するためには、他人の著作物に「依拠」して作成されたことが必要ですので、「たまたま創作した作品が他人の著作物に似ていた」という場合には、著作権侵害にはなりません。この点、生成AIについては、生成AIに生成物を作成させる主体自身は、他人の著作物を見ることはなく、ただ、生成AIが他人の著作物を「学習」してこれと似たような生成物をアウトプットしたという場合、この「依拠」性が認められるかについては、争いがあるところでした。

 今回の中間とりまとめでは、この点についても、AI又はAIに生成物を作成させた人のいずれかに「依拠」があった場合は、依拠性を肯定する見解が示されています。したがって、生成AIを使う主体である人自身が「他人の著作物」を知っておらず、生成AIの学習によって類似したアウトプットが出力された場合でも、著作権侵害になる可能性があるということになります。

(3)  生成AI自身が生成したアウトプット(生成物)の権利の帰属

 生成AIは、人ではありませんので、現在の法制度の下では、権利義務の帰属主体となることはできません。そうすると、生成AIを使って何かアウトプットを作成した場合、その生成されたコンテンツの著作権や特許権などは、誰に帰属するのかという問題が生じます。

 この点、従来からも、知的財産権の対象となる「創作」や「考案」が人によってなされ、その精度を上げたり、具体化したりする「道具」として生成AIが使われた場合は、その「人」を権利者とするという方向で議論が進んでいました。

 今回の中間とりまとめでも、AI生成物の著作物性が、人の創作的寄与を肯定する事情がどの程度積み重なっているかを総合的に考慮して判断されること、またその判断にあたっては、以下に記載したような要素が考慮され得ることが示されました。

  1. 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
  2. 生成の試行回数
  3. 複数の生成物からの選択
  4. 人間による加筆・修正の有無

 この点については、もし「人」の権利が成立しないとなると、その生成物についての知的財産権はなく、原則としてだれでも自由にこれを使うことができることになってしまいます。それでは、実質的に経済価値のあるコンテンツの保護が十全とはならないことから、著作権や特許権の分野でも、比較的、「人」の権利を広く認める方向での検討がなされていました。
 この方向性は、今後も継続するものと思われます。

(4) その他の権利調整

 上記の点以外にも、今回の中間とりまとめでは、多岐にわたる論点に触れられています。その中でも、知っておきたいのは、とりわけ以下のような点ではないかと思います。

  1. 著作権以外の、意匠権、商標権、商品等表示、商品形態などの観点からは、学習による権利侵害が肯定される可能性は低いこと
  2. AIが生成したコンテンツかどうかを識別できる技術的対応が必要であること
  3. 自動収集を拒否する技術が活用され得ること
  4. 権利者の利益が十分に守られるよう、契約による対応を行うことができること

3.知的財産推進計画2024

 6月4日に決定された知財推進計画2024では、生成AIやジャパンコンテンツのソフトパワーなどに配慮し、日本の経済成長や国際競争力確保、情報セキュリティ対策等の面から、様々な方向性が示されています。
 そのうち、生成AIに関連したものとしては、上記のような中間とりまとめとその議論の流れに沿った形で、概ね、以下のような点が盛り込まれています。

  1. 生成AIによる学習から、著作権などを保護するという点についての法規制については、今後の継続的な取り組みとすること
  2. 生成AIで「学習」されるコンテンツの権利者への利益還元や、「学習されないこと」についてのコントロールは、技術上の対策で補完すること
  3. 生成AIの利用者や、これらに学習されるコンテンツの権利者向けに手引を作成すること
  4. AIを使った発明でも、発明者はあくまでも「人」であること
  5. 特許権や意匠権の審査基準については、生成AIの利活用の拡大を踏まえ、諸外国の状況も踏まえて検討するとともに、AI関連発明の特許審査事例を含めた我が国の審査実務を諸外国にも発信すること

4.まとめ

 以上のように、今回の中間とりまとめや知的財産推進計画2024では、生成AIの利活用を適切に図りつつ、コンテンツの原権利者の利益を確保するという、難しい問題について、現時点での一定の解釈と指針を示したと言えます。

 とはいえ、技術進歩のスピードが速い分野だけに、まだまだ、法制度や取り組みについての整理は、道半ばといったところです。

 今後も、これら法改正や運用の変更、明確化などは、順次発生すると思われます。生成AIを利活用したビジネスモデルを考えるにあたっては、常にこうした点についての最新の動向を確認するだけではなく、今後の議論の方向性を見極めておく必要があると言えます。

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