コラム

COLUMN

男女平等のその先へ

人事労務

2021.08.04

執筆:弁護士 早崎裕子

1 LGBTという言葉はもう世間に広く認知されているでしょうか?

改めて説明すると、LGBTとは、どのような性別の人を好きになるかという性的指向に関するLesbian(レズビアン・女性同性愛者)、Gay(ゲイ・男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル・両性愛者)と性自認に関するTransgender(トランスジェンダー・性別違和)の頭文字をとった単語であり、セクシュアリティ(性のあり方)における少数者(性的マイノリティ)の総称として用いられています。

性という概念を考えるとき、単純に「身体の性」(生物学的性)だけで区別しがちですが、それ以外に少なくとも自分自身はどんな性だと思うかという「心の性」(性自認)、どんな性の人を好きになるか(性的指向)という3つの切り口から考える必要があります。

2 LGBTの問題が司法の場面で最初に議論となったのは、同性婚カップルの婚姻届が不受理とされる取扱いについてです。この種の訴訟は既に何度も提起されていますが、憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」、同条2項は「・・・婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」と規定していて、文言上は明らかに「身体の性」に着目した制度設計がなされているため、直ちに法令解釈に性概念の多様性を反映させることは難しいように思われます。

3 昭和22年に施行された日本国憲法は、第24条で家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を明確にうたった点において、明治23年に施行された大日本帝国憲法と比べると、家庭における女性の権利を大幅に強化するものでした。そして、女性の地位向上は、雇用の場面においても重視されることとなり、約35年前に制定された男女雇用機会均等法は時代の流れに沿って現在も改正を繰り返しています。

4 憲法が定める男女平等、その理念を受けた男女雇用機会均等法の時代を経て、令和の時代を迎えましたが、この間、家庭や家族の在り方が大きく変化し、性に対する社会の認識も変容してきました。そして、今では、男女という垣根を越えて、学校現場では小学生の頃から性の多様性に関する教育が施されるようになりました。

このように、日本国憲法の施行から70年以上の時を経た現在は、男女という括りを超えて、さらに多様な性について法的に保護すべき時期を迎えたといえそうです。

実際に、地方自治体のレベルでは、2015年から東京都渋谷区と世田谷区を皮切りに同性婚を「婚姻に相当する関係」と行政が認定する「パートナーシップ制度」が始まり、公営住宅への入居や公的病院における病状説明の対象となる家族の範囲や、民間が実施している家族間サービスの提供などの場面において、同性婚を法律婚と同等の取扱いとするという取り組みが始まっており、この動きは各地に広がりを見せています。

5 このような社会の変化を踏まえ、職場では、性の多様性の問題は単に「差別を受けない、差別をしない」という観点からだけではなく、人種、宗教、国籍、障がいなどと同様に多様な属性を取り入れるべきというCSR(企業の社会的責任)として、「全ての人が自分らしく働ける職場づくり」を目的として、Diversity(多様さを生かした企業の競争力に繋げる経営上の取り組み)として認識されるようになってきました。

つまり、性の多様性の問題は、ビジネスの場面では、「従来の社会のスタンダードにとらわれず、多様な属性・価値・発想を取り入れることがビジネス環境の変化に迅速・柔軟に対応することにつながり、企業の成長と個人の幸福の双方を実現することが可能になる」という観点から考えられるようになってきたのです。

このような視点で考えるとき、企業における性の多様性の問題は、採用や人事の場面で差別をしないなどといったミクロの問題にとどまるものでないことは明らかで、性の多様性に配慮した取り組みを行うことは既に「先進的」ではなく「普遍的」なものということができるのです。

(2020年7月執筆)

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