コラム

COLUMN

「ルビーロマンの韓国流出」に考える、日本の果物や技術、ブランドの模倣対策・流出防止策と権利の守り方

知的財産

2021.09.28

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

石川県が14年かけて開発した超高級ぶどう「ルビーロマン」が韓国に持ち出され、栽培されて、「世界一高いブドウ」として韓国で販売が開始されたというニュースが報道されています。

「ひどい!」と思うところですが、これは、実は、厳密にいえば違法ではないのです。
なぜそういうことになるのでしょうか。

まず、このような種や苗を栽培する権利として「育成者権」というものがあり、種苗法に規定されています。新たに植物品種を育成した者は、これを品種登録することで、「育成者権」という権利を得ることができ、登録日から25年(木本性植物の場合は30年)は、その権利者のみが栽培等をする権利を独占することができます。したがって、権利者に無断で栽培する行為は、それ自体が違法ということになります。

「じゃあ、韓国のこの無断栽培は違法では?」と思うのではないでしょうか。

しかし、育成者権をはじめ、登録が必要な権利(特許権、意匠権、商標権など)は、「国ごと」の権利ですので、「韓国での栽培」を独占したければ、日本だけで品種登録を受けても不十分で、韓国でも品種登録を受けて育成者権を取得しなければなりません。したがって、日本のみで品種登録を受けていても、韓国で登録を受けていなければ、韓国で誰かがその品種を栽培しても、違法ではないということになります。

「では、今からでも登録すれば?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、品種登録を受けるためには、「未譲渡性」というものが必要であり、たとえば日本法の場合、国内では過去1年より前に、国外では原則として4年より前に、業として譲渡されていないことが必要です。つまり、過去1年(国内)又は4年(国外)より前からすでに販売されたり、譲渡して栽培されたりしていたものについては、もう登録は受けられないということになります。なお、韓国の新品種保護法も、この点はほぼ同様です(韓国では、「新規性」といいます)。
そうすると、「ルビーロマン」は、2008年が初出荷ということですから、もう今さら出願はできない、というわけです。

「でも、そもそも、韓国に苗を持ち出す行為自体が違法じゃないの?」という声も聞こえてきそうですね。

しかし、日本の種苗法上は、以前は、日本で品種登録された苗や種などを外国に持ち出す行為そのものは違法とされていませんでした。なお、この点は、改正種苗法により、令和3年4月1日以降は、登録品種のうち権利者が持ち出し制限をしたものについては、持ち出す行為自体が違法となりました。

したがって、それ以前に、日本で登録された苗や種を持ち出すこと自体は、違法ではなかったということになります。

このように見てくると、結局、現時点では、この「ルビーロマン」の韓国での栽培や販売に対して、法律上の対策を取ることはできないということになってしまいます。

そうすると、せっかく育成者権登録をしても、日本国内では勝手に栽培されることは防止できるが、日本国内同士でけん制し合っているうちに、海外ではどんどん栽培されて売られてしまう、という本末転倒なことが起きてしまいます。

実は、こういったことは、農業だけでなく、工業技術やブランドなどでも起きてしまうことが多くあります。

技術を守る特許権や、ブランドを守る商標権なども、すべて国ごとの権利ですので、日本でしか登録していないと、日本国内でしか有効ではありませんから、日本企業同士でけん制し合っているうちに、海外の企業がどんどん技術を模倣して類似品を安く販売してしまうということが起きてしまいます。そうすると、こういった模倣品に海外シェアを奪われてしまい、権利者がせっかく良いものを作っても、それを輸出したり海外展開したりして、事業を大きくするということが難しくなってしまうのです。

もちろん、海外で権利を出願するにはお金もかかりますので、費用対効果や出願戦略を考えなければなりませんが、最初にきちんとこのあたりを整理して、どの国にいつのタイミングで出願するかということを、しっかりと考えておく必要があるわけです。

最初は、生産国と数年以内に輸出や展開をする可能性のある国に権利を出願しておき、その後、ビジネス展開を見ながら、順次出願国を拡大していくというような戦略も有効です。
もっとも、その場合、特許権、実用新案権、意匠権、育成者権などは、日本で公開されたり公然と実施されたりしたあと、一定の期間内に海外でも出願する必要があり、その期間を過ぎると、もう海外では登録を受けることができなくなってしまうので、注意が必要です。

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

お問い合わせ・法律相談の
ご予約はこちら

お問い合わせ・ご相談フォーム矢印

お電話のお問い合わせも受け付けております。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る