執筆者:弁護士 鈴木萌
技能実習生を受け入れている企業は多いと思いますが、技能実習制度については、今後見直しが予定されています。今回は、制度の見直しのうち、育成就労制度の導入について、簡単に紹介したいと思います。
1 変更の背景・経緯
技能実習制度は、1993年に制度化されましたが、その目的は、日本で学んだ技能や知識を母国に持ち帰って役立ててもらうことにより開発途上地域の経済発展に寄与することであり、労働力の需給の調整の手段として用いられてはならないとされています(技能実習法1条、3条2項)。
しかし、人材不足の深刻化により、実質的に労働力確保のために制度が利用されるようになり、低賃金、長時間労働等の不当な労働環境の問題や、原則として転籍が認められないことから、実習生の失踪の問題も発生していました。
これらを踏まえて、政府は、技能実習制度の在り方について検討を始め、2024 年3 月に、「育成就労制度」の新設を閣議決定し、2024 年6 月に参議院本会議にて可決・成立しました。
2 変更の内容
育成就労制度の導入によって大きく変わることが予定されている点として、次のような点があります。
◆ 制度の目的の変更
前述のとおり、技能実習制度は労働力確保手段とすることが禁止されていますが、育成就労制度は、制度目的が「特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保すること」に変更され、人材確保のための制度であることが真正面から認められています。
◆ 特定技能制度との関係
現在も、指定された産業分野について一定の技能を有する外国人に対しては「特定技能」の在留資格が設けられており、技能実習制度を終えた技能実習生が、「特定技能1 号」の在留資格で就労し続ける例は多数ありました。
しかし、技能実習生は原則として母国に帰ることが予定されていることから、「技能実習」の受入産業分野と「特定技能」の受入産業分野は必ずしも一致しておらず、分野によっては、実習生が「特定技能」の在留資格を取ることが難しいという問題がありました。
育成就労制度では、育成就労期間終了後は、特定技能1号の在留資格を取ることが予定されているため、育成就労の受入分野と特定技能1 号の受入分野が原則として一致する予定になっています。
◆ 就労者の権利保護
現行制度では、原則として転籍が不可ですが、やむを得ない事情がある場合や、一定の条件を満たす場合(一定期間就労したこと、技能検定試験、日本語試験合格などの条件が予定されています。)に、本人の意向による転籍が認められることになります。
その他、育成就労計画の認定に比較的厳しい要件が課されたり、監理支援機関に外部監査人の設置義務が課されたりする等、就労者保護の仕組みの構築が予定されています。
3 まとめ
改正法については、公布日から原則3 年以内に施行されることが予定されており、概ね3 年以内には制度変更される見込みです。
上記以外にも変更点がありますので、現在技能実習生を受け入れている企業や今後対象分野に外国人労働者を受け入れたいと考えている企業等は、制度変更の状況を注視する必要があります。
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