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コラム

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海賊版対策と著作権法 ~文化庁の「海賊版による著作権侵害の相談窓口」開設~

知的財産

2022.10.11

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

 いわゆる「海賊版」による著作権侵害行為によって、日本のコンテンツ産業は深刻なダメージを受けており、このままでは日本の豊かなコンテンツ産業の担い手が育たなくなってしまうのではないか、ということが危惧されています。

 文化庁の発表でも、日本における海賊版サイトの総訪問数は月間約6億アクセス(2021.07現在)となっており、また、オンラインで流通する我が国のコンテンツのうち、映画、出版、音楽、ゲームにかかるものの海賊版被害額は、年間3,300億円から4,300億円超にのぼると推計されています(2019年現在)。
 さらに、漫画に関する海賊版被害は深刻で、年間にタダ読みされた漫画の損害金額は1兆円を超えると言われており、これは、漫画の正規版の市場規模である6126億円を大きく上回っています。(以上、出典は、文化審議会著作権分科会中間まとめ「国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方について」。)
 このように、正規の市場規模を超える違法ダウンロード市場が形成されていることは、このようなコンテンツ業界の発展を阻害し、このような状況を放置すれば、次世代のコンテンツ産業の担い手が育たず、結果として、私たち読者も良質なコンテンツを読むことができなくなってしまいます。

 これらの海賊版対策については、これまでも著作権法の改正により違法コンテンツのダウンロード行為そのものを刑事罰の対象としたり、刑事罰の厳罰化(H24.10.1から、違法ダウンロード行為に対する刑事罰として2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はこれを併科、とされています。)をするなどの対応がなされてきました。また、裁判例においても、海賊版の流通を許したプラットフォーマーの責任を認めた事例や、海賊版流通サイトに広告を出稿した企業にも法的責任を認めた事例などが出ており、法的な対応は徐々に進んでいるところです。
 ただ、一方で、海外拠点のタダ読みサイトなどに対しては、ある程度の法的対応はできるものの、必ずしも強力かつ有効な対応が簡便にできるという状況にはないのが、現状です。

 こうした現状の危機感を背景に、文化庁は、「インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト」を公開しました。さらに、2022年8月30日からは、相談窓口を新設し、主にインターネット上の海賊版による著作権侵害に関する相談受付を開始しました。この相談窓口に寄せられた相談に対しては、文化庁に協力する「弁護士知財ネット」の弁護士が、著作権に関する知見に基づいて回答を行っています。私も、微力ながら、この文化庁の「海賊版による著作権侵害相談窓口 担当弁護士」として、相談対応を行っています。

 なお、文化庁のポータルサイトでは、「著作権侵害(海賊版)対策ハンドブック」や、「初めての『削除要請』ガイドブック」なども公開されており、著作権者が自分の権利を守るために取り得る対応を、分かりやすくまとめています(文化庁ポータルサイトhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html)。
 これらのガイドブックに記載されていますが、最近の傾向では、YouTube、Facebook、中国のbilibili動画などの正規のプラットフォーマーであれば、適切な削除要請窓口への通知をすることで、自主的な削除がなされる事例も増えてきています。

 一方で、当初から確信犯的にこうした海賊版の流通を行っている海外拠点のタダ読みサイトなどについては、削除要請に応じないところも多く、対応が難しいところです。このような場合は、刑事告訴や告発、及び民事上の法的請求(差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、名誉回復等の措置請求など)を行うことを検討せざるを得ません。こうした局面になると、かなり専門的な知識や経験が必要となる場合が多いので、専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 いずれにしても、最近は、海賊版に対する問題意識や危機意識が社会にも共有されてきており、新しい判例なども生まれているところです。
 権利を侵害されたと感じた著作権者は、なるべく早急に文化庁のポータルサイトでの情報収集や相談申し込みなどをされることが強く推奨されると言えるでしょう。

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