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コラム

COLUMN

不正競争防止法に基づく水際差止(模倣品対策)のご紹介

知的財産

2024.10.04

執筆者:弁護士 堀田明希

1 水際差止制度

 自社商品を模倣する模倣品(コピー品)対策としては、自社商品に付す商標について商標権を取得する、デザインについて意匠権を取得する等の方法があります。これらの権利を取得していれば、権利を侵害する者に対して、販売差止、在庫廃棄、損害賠償請求等の要求ができるようになります。
 ですが、模倣品が国外から輸入されたのち、国内で出回るという事案の場合、日本国内での権利行使対象者は輸入業者・販売業者とならざるを得ず、製造元への権利行使ができないため「いたちごっこ」になりかねませんし、模倣品の国内流通を即時に止めることはできません。
 このように権利者自身が模倣品の輸入対策を行うことは限界があるところ、財務省関税局に知的財産権侵害品の輸入を差し止めるように申請し、受理されれば、輸入を差し止めてくれるという制度[1]があります。これが通称「水際差止」です。

2 不正競争防止法(混同惹起)に基づく国内初の申請(バランスラボ株式会社)

 ところで、当事務所顧問先企業である、バランスラボ株式会社(https://balanslab.jp/)は、自社が展開するバランスチェア「バランスイージー」の模倣品対策に苦慮していました。「バランスイージー」は特徴的な形状を有し、顧客にも長年愛される商品です。そのためか、模倣品が多く出回ってしまう状況が続いており、粗悪な模倣品を購入してしまった顧客が販売元を同社と勘違いし、同社に誤ってクレームをいれるということもままありました。この模倣品の多くは国外で製造、輸入された後、大手ECサイト等で販売されるというルートをたどり流通しています。

[2]

 バランスラボ株式会社は、「バランスイージー」に付す商標である「Balans Easy」(商標登録第5546369号)等の商標権を有していますので、模倣品が登録商標を付してくれていれば商標権侵害の主張は可能です。ですが、模倣品はバランスイージーの形態を模倣するだけであり、「Balans Easy」等の登録商標を付していないため商標権侵害の主張は難しい状況でした。
 そこで、バランスラボ株式会社は不正競争防止法(混同惹起)に基づく水際差止の手続きをとることにしましたが、税関によれば「不正競争防止法における混同惹起に基づく国内初[3]の事案」とのことであり、申請が受理されるまでには相応の時間を要しました。

 時間を要した理由は複数ありますが、その一つに経済産業大臣の意見書取得が必要という点があります。
 商標権や意匠権といった登録された権利に基づく申請とは異なり、不正競争防止法違反にかかる主張は、被疑侵害品の輸入行為等が本当に不正競争行為を組成するか「お墨付き」がありません。そのため、不正競争防止法に基づく申請にあたっては、経済産業大臣の意見書(お墨付き)を得たうえで、これを添付資料として税関に水際差止を申請するというフローを経る必要があります。
 被疑侵害品を輸入する行為が不正競争(2条1項1号)に該当するためには、不正競争であると主張する者の取り扱う商品が、特別顕著性や周知性といった要件を充足する必要があります。
 幸い、バランスラボ株式会社が展開する「バランスイージー」は他のバランスチェアと異なる特徴的な形状をしていること、かつ、数十年にわたる販売実績、マスメディアへの露出、グッドデザイン賞の受賞歴等から周知性を獲得していることが認められ、経済産業大臣の意見書を取得することができました。なお、立証の程度に差はあるものの、意見書取得にあたり主張する事実、証拠は訴訟と同じと考えていただいて結構です。
 本コラム執筆時点[4]でも、不正競争防止法に基づく受理は3件にとどまっています。「不正競争防止法における混同惹起に基づく国内初の事案」であった理由は、おそらく意見書取得が必要となるという点が多分に影響していると推察されます。

 今後、バランスイージーと類似する商品を輸入しようとしても税関で差し止められる可能性が高くなり、模倣品対策としての効果が期待できます。
 バランスラボ株式会社は、各ECサイトにおける模倣品販売業者の排除にも力を注いでいるところ、経済産業大臣の意見書取得済みであること、水際差止が受理されていることを説明することで、以前よりもスムーズに模倣品が排除されています。


[1] https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/

[2] https://balanslab.jp/products/balanseasyより引用

[3] 申請時には初の事案でしたが、他の事案が先に受理(申請の効果が生じる)されたため、受理された案件としては国内2例目となります。

[4] 2024年10月2日

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