執筆者:弁護士 堀田 明希
昨年は、個人情報保護法違反により2 件の刑事事件が立件され、逮捕者も出ました。
これまで、個人情報保護法違反のみを理由として逮捕に至ったケースはなかっただけに、今後の新しい流れとして、注目されています。
以下、摘発案件を見てみましょう。
1 件目は、建築関連の人材派遣会社に勤める男性が、都内の同業他社から転職する直前に、転職元の名刺情報管理システムにログインするID やパスワードを転職先のグループ会社の社員にチャットアプリで提供したという事件です。このID とパスワードを使えば、転職元が保有している営業先の名刺データ数万件を閲覧することができたということで、実際に転職先の企業側で営業活動に使われ、成約事例もあったということです。この男性は、個人情報保護法違反(不正提供)で逮捕されました。
2件目は、大手塾の講師が、生徒を盗撮し、その写真や、複数の女児の氏名、住所などをSNS に投稿したという事件です。この事件では、この講師の男性は個人情報保護法違反(盗用)容疑で書類送検されました。また、両罰規定(犯罪行為をした者の所属する法人も同様に刑事罰を問う規定)に基づき法人としての大手塾自体も書類送検されました。
これまで、営業秘密の漏洩などは、不正競争防止法で立件されることが多く、はま寿司や、ベネッセの事件など、多くのケースでは持ち出しをした犯人が刑事罰を受けています。
しかし、この不正競争防止法において「営業秘密」と認められるためには、対象の情報が、「秘密管理性」、「有用性」、「非公知性」という三つの要件を満たしていることが必要でした。このうち、「秘密管理性」は、なかなかハードルが高く、「営業秘密」として保護されるには、かなりの困難がありました。
たとえば、先の学習塾のケースでは、講師自身が女児の写真を盗撮していますので、その顔写真のデータは、学習塾が「秘密に管理」していたわけではなく、「営業秘密」には該当しにくいと言えます。
このように、不正競争防止法によって保護を図るにはハードルが高いというケースについて、最近では、個人情報保護法違反で立件される傾向になってきていると言えます。個人情報保護法は、個人情報を「自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、または盗用した」場合に、犯罪が成立するとしており、不正競争防止法のような「秘密管理性」などの要件が不要ですので、立件が比較的容易と言えます。
ここで注意しておかなければならないのは、先の学習塾の例のように、学習塾自体は「被害者」とも言えますが、情報主体からみれば「加害者」でもあるところ、両罰規定により、法人自体も刑事罰が科せられ、家宅捜索等の捜査の対象となり得るということです。
自社の社員が個人情報を不正に扱った場合、会社自体が捜査を受け、刑事罰を受けるかもしれません。
これからは、こうした観点からの情報管理が、極めて重要になります。
個人情報の取り扱いに疑問を感じたら、ぜひ当事務所にご相談ください。
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