執筆:弁護士 鶴利絵
近年、ドライブレコーダー(車載搭載カメラ)の機能が高まり、また安価なものも販売されており、トラックやタクシーなどの業務用車両のみならず、家庭用の車両にも搭載する人も増え、かなり普及してきているように思われます。
機能としては、常時録画タイプ・衝撃関知や任意録画タイプがあり、前方の画像だけを記録するもの、後方も撮影できるもの、時刻、加速度などがわかるものなど、いろいろあるようです。
では、こういったドライブレコーダーの映像は、裁判の証拠になるのでしょうか?
裁判と一概にいっても、交通事故の場合、人を死傷させるなどすれば刑事裁判になることもありますし、損害賠償請求を求める民事裁判となることもあります。
刑事裁判とは、国を代表する検察官が、罪を犯したと疑われる者に対する処罰を裁判所に訴え( 起訴)、裁判所が刑事罰を下すか否かの判断を下す手続です。
民事裁判とは、私人( 個人や法人) が損害賠償請求金の支払い等を求めて私人を訴え、裁判所が賠償金額等について判断を下し、紛争を解決する手続です。
ドライブレコーダーの映像が証拠として使用されるのは、刑事裁判においては裁判官が証拠の採用を決定したとき、民事裁判においては裁判官が取り調べたときと、いずれも裁判官の判断によることになります。
つまり、裁判官が証拠として使用するとの判断をすれば、ドライブレコーダーの映像は、裁判の中で証拠として扱われることになるわけです。
では、実際に、証拠としての有用性はどの程度あるのでしょうか?
刑事裁判でも、民事裁判でも、争点になるのは事故態様です。信号は赤だったのか、青だったのか、速度違反はあったのか、一時停止で止まったのか、交差点に先に入ったのはどちらか、などです。
このような争点を考えると、機能としては、交通事故よりも前から録画がされている「常時録画タイプ」が有用だということになります。録画の方向としては、少なくとも前方の画像はしっかり撮れていることが重要ですが、後方の画像もあれば更に好ましいでしょう。また、問題となっている交通事故の映像だということがわかるように、日時も記録されるほうがよいかと思います。
事故態様が詳しく映像として残っていれば、争点の解決にはかなり資する可能性があります。もちろん、ドライブレコーダーの映像は、生の事実の記録ですので、必ずしも撮影者にとって有利な証拠とはなりませんので、その点は注意が必要です。従って、民事裁判で証拠提出する場合とは、実際には有利な証拠であると判断したときということになるでしょう。
交通事故の民事裁判においては、事故態様から導き出される過失割合が、損害賠償額の増減に影響するため、近年、ドライブレコーダーの映像が証拠として提出する当事者が増えてきました。その結果、裁判官が、警察官の作成する実況見分図面とは異なる事故態様が認めたり、過失割合が修正したりする場面も見受けられるようになってきました。
従いまして、ドライブレコーダーの映像が、ご自身にとって有利な証拠であるときには、証拠提出することをご判断されればよいのではないかと思われます。
交通事故が発生した場合に、当事者の主張する事故態様が異なることは通常のことです。ですので、万が一に備えて、ドライブレコーダーを搭載されておくことをおすすめします。
(2017年8月執筆)
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